Q.社長であれば、いつでも自由に従業員をクビにすることができるのでしょうか。
A.
解雇は、原則として使用者の自由な行為ですが、労働基準法で所定の手続きが定められているほか、法律上当然のこととして解雇が禁止・制限されている場合があります。
また、権利の濫用と認められる解雇は無効であり、労働契約法にその趣旨が明記されています。解雇に関する法律の規定や法的な考え方をよく理解しておく必要があります。
労働者に対する解雇事由の明示と解雇の種類
そもそも、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して書面の交付により「解雇の事由」を明示しなければならず、就業規則においては、退職に関する絶対的記載事項として「解雇の事由」を記載しなければなりません【労働基準法15条・同第89条3号】。
一般に、解雇には次のような種類があります。
- 普通解雇
労働者の落ち度(非違行為:無断欠勤や遅刻などの職務懈怠、勤怠不良等)や能力あるいは適性の欠如を理由とする解雇。 - 整理解雇(いわゆる「リストラ」と言われるもの)
不況による業務の縮小、事業所の廃止、経営の合理化等により人員整理を目的として行われる解雇。 - 懲戒解雇
労働者が重大な企業秩序に反する行為を犯したことに対する処分として行われる解雇。退職金が不支給となるなど、当該労働者に不利益な取り扱いを伴うことが多く見られます。 - 諭旨解雇
懲戒解雇を若干軽減した処分として行われる解雇。法律上の正確な定義ではありません。
解雇を禁止する法律の規定
労働基準法、労働組合法等の労働関係法規では、次のような解雇禁止規定が定められています。
この期間や事由については、原則として解雇を行うことはできません。
- 業務上の負傷・疾病による休業期間とその後30日間の解雇【労働基準法第19条第1項】。
- 産前産後の休業期間とその後30日間の解雇【労働基準法第19条第1項】。
- 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇【労働基準法第3条】。
- 労働基準監督署等に申告したことを理由とする解雇【労働基準法第104条】。
- 労働組合を結成したり、組合活動を行ったことを理由とする解雇【労働組合法第7条】。
- 労働者の性別を理由とする解雇【男女雇用機会均等法第6条第4項】。
- 女性労働者が結婚したことを理由とする解雇【男女雇用機会均等法第9条第2項】。
- 女性労働者が妊娠、出産したこと、産前産後休業を取得したこと、男女雇用機会均等法による母性健康管理措置や労働基準法による母性保護措置を受けたことなどの厚生労働省令で定める事項(※)を理由とする解雇【男女雇用機会均等法第9条第3項】。
(※)
ア)妊娠したこと。
イ)出産したこと。
ウ)妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)を求め、または当該措置を受けたこと。
エ)坑内業務の就業制限もしくは危険有害業務の就業制限の規定により、業務に就くことができないこと、坑内業務に従事しない旨の申し出をしたこと、またはこれらの業務に従事しなかったこと。
オ)産前休業を請求し、もしくは産前休業をしたこと、または産後の就業制限の規定により就業できず、もしくは産後休業をしたこと。
カ)軽易な業務への転換を請求し、または軽易な業務に転換したこと。
キ)変形労働時間制がとられている場合において、1週間または1日について法定労働時間を超える労働について労働しないことを請求したこと、深夜業をしないことを請求したこと、またはこれらの労働をしなかったこと。
ク)育児時間を請求し、または育児時間を取得したこと。
ケ)妊娠または出産したことに起因して妊産婦に生じる症状(つわり、出産後の回復不全など)により労務の提供ができないこと、もしくはできなかったこと、または労働能率が低下したこと。 - 妊娠中と出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇は、事業主が妊娠中及び出産後1年を経過しないことが理由ではないことを証明しない限り、無効とする【男女雇用機会均等法第9条第4項】。
- 育児休業、介護休業の申し出や取得を理由とする解雇【育児・介護休業法第10条、同第16条】。
解雇の手続き
労働基準法第20条では、解雇された労働者が次の職を探す上での時間的、経済的な余裕を与える趣旨から、次のように解雇の手続要件を定めています。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前に予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。この予告日数は、平均賃金を1日分支払った日数だけ短縮できる。
ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合、または労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合は、上記の解雇手続を省略できますが、その場合には、労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
また、労働基準法第21条では、次に該当する労働者には、解雇の手続きは不要であるとしています。
- 日々雇用される人で、継続して使用される期間が1ヵ月以下の労働者。
- 2ヵ月以内の期間を定めて使用される労働者で、その期間を超え、継続して使用されることのない労働者。
- 季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて使用される労働者で、その期間を超え、継続して使用されることのない労働者。
- 試の使用期間中の労働者で、その期間が14日を超えていない労働者。
つまり、「労働契約の期間に定めがある場合」では、季節的業務を除き、継続して2ヵ月以上使用されていれば、また、就業規則や労働契約で定められた試用期間中においては、14日を超えて使用されていれば、解雇の手続きが必要です。
なお、これらは、あくまでも解雇をする上での手続要件であり、手続きさえ踏めば自由に解雇できるものではなく、解雇には客観的かつ合理的な理由が必要です。
解雇予告について
1. 予告の時期
少なくとも30日前に行われなければなりません。
解雇が予告された日は含まず、翌日から計算します。また、解雇の予告は、解雇の日を特定してなされなければなりません。期日が不確定なものや条件つきの予告は、解雇予告とはみなされません。
2. 意思表示の方法
解雇予告の方法については、法律上の規定はなく、口頭でも文書でも差し支えないとされています。しかし、いずれの方法においても、対象となる労働者が確実に知り得る状態にすることが必要です。
また、解雇予告の効力が発生するのは、人事権を持っている使用者が相手方たる労働者に意思表示をなした時であるとされています【民法第540条】。従って、目の前で人事権を持っている使用者が対象となる労働者に解雇を予告した時は、その時点で効力が生じ、遠くにいる人に対して郵送等で解雇予告を行った時は、それが相手方に到達した時にその効力が生じることになります【民法第97条】。
ただ、無用なトラブルを避けるためにも、文書による意思表示が望ましいことは言うまでもありません。労働基準法では、使用者は、解雇の予告をした日から解雇日までの間に労働者が当該解雇の理由についての証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければならないと定めています【労働基準法第22条第2項】。
3. 予告の更新
「予告期間が満了しても引き続き使用する」というように、漫然と解雇の予告が反復更新される場合は、労働者はいつ解雇されるのか予測できず、このような予告だけでは労働契約が終了したとはみなされません。
4. 予告の取り消し、予告後の解雇日の変更
使用者が行った解雇予告の意思表示は、一般的に取り消すことはできませんが【民法第540条第2項】、労働者が具体的な事情のもとに自由な判断によって同意した場合は、これを取り消すことができます。予告後の解雇日の変更も同様です。
解雇予告手当について
解雇予告をしない即時解雇の場合、使用者は、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。
1. 平均賃金・解雇予告手当の計算方法
(過去3ヵ月間の総賃金/総日数)×(30日-解雇予告の翌日から解雇日までの日数)
[1日あたりの平均賃金【労働基準法第12条】 ]
※時間給制、日給制等の場合における平均賃金は、過去3ヵ月間に支払われた賃金総額をその期間の労働日数で除した金額の100分の60と比較して高い方の金額となります。
※解雇事由発生日は、労働者に解雇予告をした日であり、予告の後、労働者の同意を得て解雇日を変更した場合でも、当初の解雇を予告した日になります。
2. 支払時期
少なくとも解雇と同時に支払われるべきものです。
即時解雇ではなく、30日の予告の一部を予告手当で支払い、予告と予告手当を併用する場合の支払時期については、予告と同時に支払う必要はなく、予告の際に予告の日数と予告手当で支払う日数が明示されている限り、現実の支払いは、解雇の効力発生の日までに行われればよいとされています。
3. 支払方法
解雇予告手当は、その内容が退職手当と似ていますが、過去の労働との関連が薄く、むしろ労働者の予測できない収入の中絶を保護するものであるため、労働の対償である賃金とは言えず、労働基準法第24条に定める賃金の直接払、通貨払の原則は適用されません。
しかし、解雇予告手当は、「賃金に準じるもの」と考えられるため、その支払方法についても賃金に準じて考えられるべきものとされています。
3. 支払方法
解雇予告手当は、その内容が退職手当と似ていますが、過去の労働との関連が薄く、むしろ労働者の予測できない収入の中絶を保護するものであるため、労働の対償である賃金とは言えず、労働基準法第24条に定める賃金の直接払、通貨払の原則は適用されません。
しかし、解雇予告手当は、「賃金に準じるもの」と考えられるため、その支払方法についても賃金に準じて考えられるべきものとされています。
4. 解雇予告手当を支払わない場合の付加金の請求
使用者が解雇予告手当を支払わない場合、労働者は、裁判所に対し、解雇予告手当と同じ額の付加金の請求を申し立てることができます【労働基準法第114条】。
-「解雇権濫用法理」が労働契約法に明記 –
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。【労働契約法第16条】
解雇をめぐる紛争の防止・解決を図る上で解雇に関する基本的なルールを明確にする必要があるとの趣旨から、労働契約法に最高裁判決で確立されていた「解雇権濫用法理」が明記されています。
この規定は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その解雇は無効となる」ことを定めた効力規定です。また、民法第1条第3項においても権利行使の基準として「権利の濫用は之を許さず」と定められています。
[解雇権濫用法理に関する代表的な判例]
アナウンサーが2週間のうちに2度も宿直勤務において寝過ごし、定時のニュースを放送できなかったことを理由とする解雇の効力が争われた事案について、最高裁は、アナウンサーとしての責任感には欠けるものの、悪意・故意ではないこと、同時に寝過ごした記者は譴責処分であること、それまでに同様のミスはなく、社内で同様のミスでの解雇もないこと、本人も非を認めて反省していることなどから、「解雇は必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある」として、解雇を無効とした。
【高知放送事件/最二小判/昭52.1.31】