ご相談「就業規則は、見せていないと効力が無いのでしょうか?」
社員S氏と会社のトラブルです。
会社は、S氏が取引先のお客様に暴言を吐いたことを理由に、就業規則の解雇条項である「故意または重大な過失によって会社の信用を傷つけた」を適用し、解雇しました。
ところが、そのS氏は、会社の就業規則など一度も見たことがなく、見たこともない規則に基づいて解雇されるのは無効だとし、地位保全の訴えを起こすと言っています。
就業規則は実際に見せていなければ、効力が無いのでしょうか?
ご回答「就業規則には周知義務があるので、周知していなければ効力が無いとされてしまう可能性が高い」
「就業規則はあるけれど…、社員に見せたことはない」「求められないので見せていない」という会社は意外に多いものです。あるいは「しっかり内容が整備されていないので見せるのが不安」という場合も。
果たして、このような周知義務を欠いた就業規則は有効なのでしょうか?
見解が分かれているところではありますが、判例では、「労働者代表の意見聴取」「労基署への届出」については欠いたとしても就業規則は有効としていますが、「周知義務」を欠いた就業規則は無効と解するケースが多いようです。今回のケースを就業規則の適用による解雇という点だけで考えると、まったく周知されていない規則に基づいた処分であるため、会社側が不利と考えられます(S氏の行なった行為が相当に悪質であり、社会通念上解雇に相当する行為と認められれば、就業規則に基づかない解雇であっても可能となり得る場合もあり得ますが)。
また、周知することと実際に中身を理解させることは別次元の話となる点も注意ください。
もちろん、就業規則の中身まで丁寧に説明をされて社員に理解しておいてもらうことはとても有効なのですが、まず法律が求めているのは周知、つまり「見たい時に見られる状況にしておくこと」であり、中身を十分に理解させることまでは求められていません。 労使トラブルの防止だけでなく、トラブル発生時の懲戒処分の根拠としても重要になる就業規則です。しっかり就業規則を整備し、周知しておくことが非常に大切です。
就業規則の周知は、会社の義務となっている
労働基準法で常時10人以上を雇用している事業場では、就業規則を作成し、管轄の労働基準監督署に届出して、かつ、周知することが必要となります。
これは、初めて就業規則を作成(導入)された時だけでなく、内容を変更(改定)された時も同様です。 また、周知をしておらず悪質であれば30万円以下の罰金の対象にもなりますので注意が必要です。
どうやって周知すればいいのか?
就業規則は「社員が見たいと思った時に、見られるようにしておく」ことが求められます。
具体的には、次の3つの方法が示されています。
- 事業場の見やすい場所に掲示、又は備え付ける。
- 書面で社員に交付する。
- パソコンやサーバーなどにデータとして保存し、いつでも見られるようにしておく。
就業規則の内容を知らなければ社員は就業規則を守りようがないのですから、これは当然の理を表したものといえます。
フジ興産事件 最高裁 H15.10.10
就業規則が拘束力を生ずるためには、その適用を受ける事業所の労働者に周知させる手続きを要する。
原審は、旧就業規則を労基署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容を労働者に周知させる手続きが取られているかどうか認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、懲戒解雇を有効とした。
原審の判断には法令の適用を誤った違法があり、原判決を破棄し原審に差し戻す。
関西定温運輸事件 大阪地裁 H10.9.7
労基法所定の周知方法が採られていないからといって、直ちに就業規則の効力を否定するべきではないが、使用者において内部的に作成し、従業員に対し全く周知されていない就業規則は労働契約関係を規律する前提条件をまったく欠くというべきであるから、その内容がその後の労使関係において反復継続して実施されるなどの特段の事情がない限り、効力を有しないと言うべきであり、特段の事情があったと認めるに足りる証拠もない。
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