従業員の「自転車通勤事故」が企業の新たなリスクに!
類似のテーマである「マイカー通勤」に関しては、社内規程(マイカー通勤規程等)の整備、補償無制限の民間保険に加入すること等を、そもそもマイカー通勤を許可する基準と定めている企業も多くあるでしょう。
これは従業員が通勤途上に起こした「自動車事故」で、その「賠償責任を企業も負う可能性がある」というリスクへの対応策に取り組んでいるためです。既に「使用者責任・運行供用者責任」に基づき企業に責任を取らせる判例も多く出ていることから、未整備であるならば早急に対応策を検討する必要があると考えます。
企業への損害賠償を含めたリスクを考えた場合に、果たして「マイカー通勤」だけに配慮すれば足りるのでしょうか?
昨今のエコブームや健康を意識して、都心部を中心に自転車通勤を始める人が増えています。このため、自転車通勤中の事故に対するリスクも以前より増していると考えなければなりません。当然のことながら、自転車通勤をする運転者自身の怪我が心配されますが、一方で、運転者が加害者となる場合もあるでしょう。
次の事例は、通勤途上の事故ではありませんが、自転車事故の場合にも高額な損害賠償の支払いが必要となったものです。通勤途上であれば、企業の責任を問われる可能性が排除できないため、事前に対応策を検討しておく必要があるでしょう。
事例-自転車事故で5000万円の支払い命令
当時16歳の女子高生が携帯電話を操作しながら無灯火の自転車を片手運転していた際、市道を歩行中の看護師女性に追突。被害者女性は手足に痺れが残って歩行困難になり、職も失った事例。裁判所は加害者女性に約5000万円の支払いを命じた(横浜地裁判決 2005年)。
自転車通勤を認める場合の企業の対応策
許可基準の策定
自転車通勤を許可する基準として「民間保険への加入」、「安全運転教育の受講」を義務付ける等の基準の策定・運用が考えられます。
なお、民間保険としては自転車保険や個人損害賠償保険などがあり、例えば「TSマーク付帯保険」の場合、TSマークの貼られた自転車の運転中に事故を起こした際には、死亡、重度後遺障害に対する傷害保険金や賠償責任保険金が最高限度額2,000万円支払われることになっています。従業員に民間保険の加入を義務付ける場合には、このような保険に関する情報を提供していくことも必要でしょう。
通勤費の取り扱い
通勤費は会社の賃金規程等の定めに基づいて支給されますが、公共交通機関と自家用車による通勤手当のルールは整備されていても、自転車通勤については定めがないケースが一般的でしょう。
そのため、自転車通勤を認める場合には、そもそも手当を支給するか否かを検討し、ハッキリさせておくとよいでしょう。
関連規程・書式の整備
実際に自転車通勤を認めることになると、許可する際の申請手続などを「自転車通勤規程」等に明確に定めておく必要があり、併せて関連する書式(自転車通勤許可申請書等)を用意しておかなければなりません。
このように手続きを明確にしておくことで、従業員自身の都合で自転車通勤をしていいものではなく、会社の管理下で自転車通勤が行われていることを周知することにもつながります。