東京都新宿区の社会保険労務士事務所

シャノアス社会保険労務士法人

給与計算のルール19 「定年再雇用後の給与設計」

給与計算に必要なルールとは?

給与計算は、労働基準法/健康保険法/厚生年金保険法/雇用保険法…他、多くの労働社会保険関連法令を理解した上で行わなければ、正確な計算を行うことができません。

しかしながら、よく利用される知識と普段あまり利用されない知識とがあるように、給与計算を行う上でも、最低限必要となるいわば「核」となる知識があるものです。これから何回かに分けてこの基礎知識について確認していきます。

第19回の今回は、「定年再雇用後の給与設計」についてです。

1. 高年齢者雇用安定法改正

少子高齢化の急速な進展の中で、高い就労意欲を有する高年齢者が長年培った知識と経験を活かし、社会の支えてとして意欲と能力のある限り活躍し続ける社会が求められています。

このため、高年齢者が少なくとも年金支給開始年齢までは働き続けることができるよう、平成18年4月1日から、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律が改正され、事業主は以下の措置を講じなければならないこととなりました。

定年(65歳未満のものに限ります。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の安定した雇用を確保するため、

  1. 定年の引上げ
  2. 継続雇用制度の導入
  3. 定年の定めの廃止

のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければなりません。2の継続雇用制度は、原則として希望者全員を対象とする制度の導入が求められていますが、法律の施行規則において、各企業の実情に応じ労使の工夫による柔軟な対応がとれることになっています。

具体的には、労使協定により「継続雇用制度の対象者となる高年齢者」に係る基準を定めて導入した場合には、必ずしも希望者全員を継続雇用しなくても、2の制度を導入したとみなされることになっています。

注)
雇用確保が義務とされる年齢は、年金(定額部分)の支給開始年齢の引上げスケジュールにあわせ、平成25年4月1日までに次のように段階的に引上げていくものとします。

  • 平成18年4月1日〜平成19年3月31日:62歳
  • 平成19年4月1日〜平成22年3月31日:63歳
  • 平成22年4月1日〜平成25年3月31日:64歳
  • 平成25年4月1日〜:65歳

2. 在職老齢年金の仕組み

60歳以降、厚生年金の被保険者として働きながら、老齢厚生年金を受給すると、賃金と年金額に応じて年金額の一部又は全部が調整され支給停止されます。この調整されて支給される年金を「在職老齢年金」といいます。

具体的には、60〜65歳までの間は、賃金と年金額の合計額が28万円を上回る場合、賃金の増加2に対し、年金額を1停止し、賃金が46万円を超える場合、賃金が増加した分だけ年金額を支給停止します。在職中の一律2割の年金支給停止は、60歳代前半の就労を阻害しないよう、平成16年改正により、平成17年4月から廃止されました。
65〜70歳までの間は、賃金と年金額の合計額が46万円を超える場合、賃金の増加2に対し、年金額1を支給停止します(ただし、基礎年金は全額支給)。
また、70歳以降についても、平成16年改正により、平成19年4月から、60歳台後半と同じ扱いとなります(ただし、保険料負担はなし)。

3. 高年齢雇用継続基本給付金

60歳以上65歳未満の被保険者であって、被保険者であった期間が通算して5年以上ある方であり、かつ、各暦月(支給対象月)の賃金額が、60歳到達時の賃金月額の75%未満に低下した状態で雇用されている方に、最大で支給対象月の賃金額の15%が給付される制度です。
なお、これも厚生年金との一部調整があります。

4. 試算方法と人件費削減案

厚生年金の在職老齢年金制度や雇用保険の高年齢雇用継続基本給付金制度を最大限に活用すること、ならびに毎月の給与額を調整することによって、従業員の手取額を減らすことなく、会社の人件費負担額を大幅に削減できる場合があります。基本的な仕組みは年齢により次の1と2によりシミュレーションします。

1. 60歳〜65歳未満の従業員

  1. 在職老齢年金を最大限に受給する
  2. 高年齢雇用継続基本給付金の受給対象者になるように賃金額を再計算する
  3. 給与・賞与の金額を調整する

a〜cの組み合わせにより、会社人件費、本人手取額のバランスを考え、最適な給与月額を試算します。

2. 65歳以上

  1. 在職老齢年金を最大限に受給する
  2. 給与・賞与の金額を調整する

a、bの組み合わせにより、会社人件費、本人手取額のバランスを考え、最適な給与月額を試算します。なお、65歳以上は高年齢雇用継続基本給付金を受給することができません。

例えば、次のような場合にこのシミュレーションを有効活用できます。

  • 60歳定年後の継続雇用制度もしくは再雇用制度を導入しているが、その際の給与について減額したい。給与をどの水準にすれば本人も納得できるのかわからない。
  • 定年前と同水準の給与を支給しているが、給与水準が高いため年金が支給停止になっている。せっかくもらえる年金を無駄にしたくないので、効率よく年金を受給できる水準まで給与を下げたい。

5. シミュレーション(好事例)

次のデータはあくまで1つの事例です。年金額の多少や、高年齢雇用継続基本給付金を受給できるか否かは個人差があり、必ずしもこれ程の好結果がでるとは限りません。ただし、試してみる価値は大いにあると感じています。

60歳時の給与43万円、60歳以降の給与を30万9千円に変更したときの場合。
(平成18年9月現在のデータを利用)

※社会保険料本人負担分の減少等も含みます。

本人手取比較

項目60歳到達時変更給与額差額
給与430,000円309,000円-121,000円
雇用継続給付0円8,837円+8,837円
在職老齢年金0円87,955円+87,955円
月額手取計357,182円357,792円+610円
年額手取計4,687,139円4,703,175円+16,036円

会社人件費比較

項目60歳時変更給与額月額差額年間差額
賃金430,000円309,000円-121,000円-1,452,000円
賞与41,666円41,666円0円0円
健康保険19,748円14,008円-5,740円-68,880円
介護保険2,962円2,101円-861円-10,332円
厚生年金30,886円35,263円-25,013円-10,250円
厚生年金基金0円0円0円0円
児童手当金433円307円-126円-1,512円
雇用保険5,424円4,032円-1,392円-16,704円
労災保険2,358円1,753円-605円-7,260円
人件費等計537,854円397,880円139,974円-1,679,688円

本人の手取額について

  • 給与を「430,000円」から「309,000円」にする場合の手取りは、60歳時に比べ月額「96,182円」の減少(年間では1,154,184円の減少)
  • 高年齢雇用継続基本給付金が「8,837円」、年金が「87,955円」が発生(加給年金を含む)
  • トータルの手取額としては月額「610円」の増加、年収では「16,036円」の増加。毎月121,000円減額しても、本人の年間収入は変わりません。

会社人件費について

60歳時の法定福利費を含めた月負担(賞与の12分の1を含む)は「537,854円」、変更後の給与では「397,880円」となり月額「139,974円」の負担減、年間では「1,679,688円」の負担減。

»給与計算アウトソーシング

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