改正の目的
労働時間の現状を見ると、週60時間以上労働する労働者の割合は全体で10.0%、特に30歳代の子育て世代の男性のうち週60時間以上労働する労働者の割合は20.0%となっており、長時間にわたり労働する労働者の割合が高くなっています。(総務省「労働力調査」平成20年)
こうした働き方に対し、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう労働環境を整備することが重要な課題となっています。
このため、長時間労働を抑制し、労働者の健康を確保するとともに仕事と生活の調和がとれた社会を実現することを目的として改正労働基準法が誕生しました。
主な改正内容
1.「時間外労働の限度に関する基準」の見直し関係(中小企業に対する猶予期間なし)
長時間にわたる時間外労働の抑制を図るために厚生労働大臣が「時間外労働の限度に関する基準(平成10年労働省告示第154号)」を定めています。従来より、特別条項付き36協定を締結し、かつ、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わざるを得ない特別の事情が生じない限りはこの限度基準を超えて時間外労働をさせてはならないとされてきました。今回の改正では、この「特別条項付き36協定」を新たに締結する際に、次の3つの事項を盛り込むこととされました。
(ア) 限度時間を超えて働かせる一定の期間(1日を超え3ヶ月以内の期間、1年間)ごとに、割増賃金率を定めること
(イ) アの率を法定割増賃金率(2割5分以上)を超える率とするよう努めること(※努力規定)
(ウ) そもそも延長することができる時間数を短くするよう努めること (※努力規定)
2. 法定割増賃金率の引き上げ(中小企業に対する猶予期間あり)
特に長い時間外労働を強力に抑制することを目的として、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間の労働について、法定割増賃金率を現行の「2割5分以上」の率から「5割以上」の率に引き上げることが義務となります。
3. 代替休暇の創設(中小企業に対する猶予期間あり)
労働者の健康を確保する観点から、1か月について60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、労使協定により、2の法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給休暇を与えることで代替することができます。
4. 時間単位年休制度の創設(中小企業に対する猶予期間なし)
従来より、年次有給休暇は日単位で取得することを原則として、支障のない範囲で半日単位での取得までが認められていました。
改正により、労使協定を締結するという条件付きで、年5日の範囲内で「時間単位の年次有給休暇」を取得することが可能となります。
中小企業に対する猶予措置について
今回の改正では、中小企業に対して一部施行日が猶予されます。中小企業の定義は、日本標準産業分類(第12回改定)によるものとされ、具体的には以下の基準で判断していきます。中小企業に該当する場合には、上述の改正内容2・3について「法の施行3年経過後に改めて検討する」こととされ、実質3年間は猶予されることとなります。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | または | 常時使用する労働者数 |
---|---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | または | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
(例)製造業(「その他」の業種に該当)
・資本金1億円、労働者数100人 →中小企業
・資本金1億円、労働者数500人 →中小企業
・資本金5億円、労働者数100人 →中小企業
・資本金5億円、労働者数500人 →大企業